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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)104号 判決 1954年1月21日

京都府竹野郡網野町字網野八〇八番地

上告人

前田重信

同所

被上告人

網野町会

右代表者町会議長

山崎松之助

右当時者間の除名処分無効確認並びに取消請求事件について、大阪高等裁判所が昭和二五年一一月七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由において上告人は本訴についてはなお訴の利益を有する趣旨を述べ、原判決の見解を非難している。しかし、本件除名の議決当時の議員が全部その資格を失つたことは、原審の確定するところであり、従つて仮に本件除名の議決が無効であるとしても、上告人が現在議員でないことは明らかである。そして、除名議決無効確認の訴は、現在上告人が町議会議員の資格を有することの確認を求める趣旨と解さなければならぬことは、原判示のとおりであるから、原判決が本件無効確認の訴について訴の利益がなくなつたものと判示したのは正当であつて、所論の違法は存在しない。その余の論旨は、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

昭和二六年(オ)第一〇四号

上告人 前田重信

被上告人 網野町会

上告人本人の上告理由

第一 憲法第十一条は基本的人権の享有を妨げられないこの憲法が国民に保証する基本的人権は侵すことの出来ない永久の権利として現在及将来の国民に与へられると規定されているが網野町会及網野町長(当時麻田勇平)は明らかに上告人に対し此権利を侵害したる違法の行為を以て適法に非らざる除名処分を遂行したるにより上告人は行政訴訟を提起したる処控訴審は憲法違反の不適法の判決をなしたので茲に上告をなす次第であります。

一、本件除名の動機と発端は昭和二十二年八月頃網野町字網野に設立すべき組合立網野中学校の敷地埋立問題に其根元をなす。

イ 組合立網野中学校の敷地として埋立予定地(小字五反田六反歩)は教育地としては現在に於ても又将来を考慮しても理想地でなく不適当の敷地なりとして上告人を主体とする議員及町民の各位は之れが変更を町当局に進言したる処幾多の屈折を経て上告人の主張する砂山畑地に変更する事に内定したのであるこれに原因して当時の町会議長高山信夫は辞任して篠村亀吉が議長になつたのである。

ロ 斯様な紛糾を経たる結果であるので当時の町長麻田勇平は表面のみの賛意であつて内心は快よしとせず而も此事は自身町長の信用を失墜したるものと感じ上告人等を敵視する事甚だしく何にか事ある場合は上告人を退けんと画策し町長麻田勇平と意を同じうする議員等とも協議し其の魔手を延ばして居たのである。

ハ 時たま〓新制高等学校建設が網野町に新設せらるべく京都府会の決定を見たるのと学制改革の問題と期を一にしたる関係上急速に実現化する必要に迫まられたので適当なる建物例えば遊休工場の建物でも買収して一時校舎に使用すべきであると町の方針を決定したのである。

ニ 上告人は仲介業である関係上訴外野村定市より遊休工場の売物のある事を聞き昭和二十二年十一月上旬訴外野村定市を介して遊休工場二階建一棟を網野町高等学校の校舎として高等学校建設委員会に買収せしめたのである。

註 新制中学校の敷地は当時の町長麻田勇平が悪辣なる画策を以て我意を貫し五反田の六反歩を埋立強行し建築を実施したが現在網野町民の声は殆ど全部が不適当の位置で建物もそ雑なりと強い非難がある。

二、而して昭和二十三年一月二十日頃に至り町長麻田勇平の策動により議員安達徳十郎、平田力之助、高山信夫等が前記買収の建物に対し上告人が不正の行為ありと宣伝し彼等は誤れる内容を調査し殊更に故意に職権と多数をたよりとして上告人を陥れんと計画を立て重大事件として放送したのであつたが町民は此笛にをどらなかつたので彼等は町会の問題として議会に持出して事件としたのである。

三、斯様な不合理な悪辣な内容の基に昭和二十三年一月三十一日議長の名のもとに(当時議長篠村亀吉)町会協議会を召集して上告人断圧の会議を開いたのである。

然し当時の議会会議規則には強力な処罰規定がないので更に協議会を本会議に直し網野町会会議規則の制定を決議し直ちに会議規則を作成し之を決定昭和二十三年一月三十一日以降適用する事とした。

四、故に網野町会々議規則は昭和二十三年一月三十一日以降の事件に効力を発生する条例であつてそれ以前の事件には旧会議規則を適用する事が原則である上告人の事件は会議規則制定以前の出来事であつて自後の事件ではない。

殊に事件は会議規則の適用を受ける議場内行為にあらずして社界人としての行為である。

五、然るに被上告人網野町会は旧規則によらずして新会議規則を適用して懲罰委員会を設け上告人を処罰したのである会議規則は法律ではないが町議会が議決した条例は法律と何等変る事のない権威のあるものと信ずる。

網野町会が法を遡及して上告人を処分した事実は立法の精神を無視したるのみならぬ其の処分と共に憲法違反の行為であり法は不遡及の原則にもとるものと云はねばならぬ。

六、以上の事実を考察する時被上告人及町長麻田勇平等は上告人を無謀にも懲罰に附して上告人の政治的生命を失墜せしむべく計画的に謀つた悪辣極まる行為と云はねばならない何にが故に昭和二十三年一月三十一日に急拠会議規則を制定せねばならないのか平和な町に町村自治行政を乱しても自己等の我意を貫す為めに手段を選ばない暴力政治と云はねばならぬ此会議規則の制定を冷静に考ふる時被上告人及町長等が明かに上告人を処罰するのみに制定した規則なりと断言してもはゞからない私利を逞くしる暴力行為である。

七、法はあくまでも厳正適切であつて法の秩序を十分に保持し而して法を厳守せしむる事は国家国民の極めて必要なる鉄則である。にも不拘地方自治行政に於ける最高機関たる町議会が網野町会の如き暴力に等しい違法越権の行為を敢てなし勝手気儘な法の運営を敢行せしむる事は真に言語同断であつて許す事の出来ない国家的重大事件と上告人は考へる。

第二 憲法第五十一条には国会は院外では責任を問はれないと制定して居る。

国会も地方議会も立法の精神は同様でなければならない。

一、此意味に於て会議規則は議会を取締り議会を運営する規則であつて議場外の行為即ち社界人としての行為には会議規則の適用は許されない故に議場外の行為に対しては会議規則の適用は違法である事は論をまたない。

二、上告人の行為が若し不正の行為であつたとしても其の行為は行為の性質に依りそれ自体を裁く法則があるべきで越権により適法に非らざる処罰は基本人権の侵害である。

三、上告人の行為は明かに議場外の社界人としての行為であつて議会人としての行為ではない従つて会議規則の適用を実施する事は極めて不当であり違法越権の行為である。

四、故に網野町会が上告人に対し会議規則を適用して除名の処分をした事は実に許すべからざる行為である。思ふに之は町長及町長を中心とした議員等が謀議を以て上告人を議席より退け自己等の政治的権力的慾望を満たさんとなしたる暴君的悪代官的な悪辣極まる権力を乱用したる衆愚政治であつて真に正しき民主政治でないから正しい法の取締りを切望する。

之等は明かに基本的人権の侵害である。

第三 地方自治法第百〇一条は地方議会の召集会期等を制定して居る当時の町長麻田勇平は此規則を無視して議会を開催し又は会期等定めず無茶苦茶なだらしのない議会運営に依て上告人に対し違法越権の行為を以て除名処分をしは事は無効である。(註第一審は之を違法と判定して居る)

イ 上告人を懲罰に附すべき町会は昭和二十三年一月三十一日より除名決議に至る昭和二十三年二月二十三日迄の間に於ての町会開催に就ては町長は一回も召集通知を発せず公示もしていない無論上告人には一度も通知をして居らない。

之れを以てしても法を無視するの甚だしいものである町長及町長を中心とする一部議員等の策謀的議会の開催であつて適法の処置とは断じて云ひ得ない。

地方に於ける最高の立法機関たる町村議会の運営を斯の如く職権の乱用とボス的存在の横暴なる非民主的な行為に依て基本的人権を侵害したる事実は許すべからざる違法越権の行為なりと信ずる。

ロ 而も昭和二十三年一月三十一日より昭和二十三年二月二十三日除名決議に至る迄の町会には上告人に対し一回の出席も求めず尚且町議会及懲罰委員会も町長も上告人より答弁を求めず又上告人に一回の訊問もしていない。

そして乱暴にも町長及町長を中心とする一部議員等が共謀して計画的に除名決議を断行した行為は真に悪辣極まる違法越権の処置と云はねばならない。

第四 地方自治法第百三十四条第百三十五条の施行が違法である。

イ 以上第三項に述べたる如く基本的人権の侵害をなし違法越権の行為を実施したるさへ言語同断の処置なるにもかかわらず昭和二十三年二月二十三日の町議会が除名処分の決議の段階に入りたる際に於ける投票行使の実情に関しては実に言語に絶したる投票を施行した事実に対しては全く法の秩序と尊厳を破壊したる行為と云はねばならない。

ロ 即ち懲罰委員会は懲罰に附すべき法的理由なしとして議会に白紙の答申をしたのである。

処が町長麻田勇平と議長篠村亀吉とは謀議を凝らしあくまで懲罰に附せざれば自己等の悪い行為の露見を恐れて懲罰の必要ありと強行に主張し強引に他の議員を引入れて全員賛否の投票に依て決定すべく決議をなし全員投票を行つたのである。

其の結果開票したる処賛成は規定の三分の二にならなかつたので否決となつたのである。

然るに高山信夫議員(上告人にうらみを持つ者)か議長にも投票権があると強く主張したので議長は開票後ではあつたが自己の一票を除名賛成に投して三分の二とし除名を決定したのである無論可否同数の場合なれば議長の決定に依らねばならないか既に三分の二にならず否決なるにもかかわらず開票後に議長が一票を投じた事は云ひ様のない馬鹿げた事で民主的な文明国には類例のない言語同断の違法越権の行為であつて公私共に基本的人権の侵害である。

ハ 斯様な馴合政治と非常識極まる投票の行使は一般的な法人でも又地方の申合組合でも絶対になさないのである然るに地方の立法機関であり又地方の最高議会である町議会が斯様な投票に依て公法人権を左右するが如き事が若し許さるゝとせば社界の秩序はどうなるでしよう全く非民主的な暗黒政治であつて法的には無論のこと常識的に於ても将又何れの面から観ても断じて許す事の出来ない事実である。

真に大いなる基本的人権の侵害である。

註 此件も第一審は違法と判定して居る。

以上の通り

第一 法の不遡及の違法

第二 会議規則の適用が不当適用すべからざる議場外の行為に対し違法越権の処分

第三 地方自治法第百〇一条に違背して議会を開催したる行為は議会自体が無効であり当然其の決議も無効であつて効力のない

違法の決議

第四 除名の投票が適法でなく開票後には否決なるにもかゝわらず無茶苦茶に議長が一票を投じて除名した違法

第五 議長には異議の申立町長には再審議の申立をなしたる上告人に対し

議会は上告人を一回も審問せず町長は再審議の手続きを執らなかつた。

懲罰委員会は一応上告人より陳謝書を以て事済みとなしながら更に除名とした裏面の策動

斯様にして町長は職権を乱用し町長と意を同しくする議員等は多数を頼む衆愚政治を以て暴力的行為を以て私刑を敢行して全く憲法を無視し基本的人権を侵害し公人格ジユウリンしたる事実に対しては断じて許す事の出来ない歴然たる憲法違反である。

高等裁判所の判決に対しての意見

判決には昭和二十五年五月十日網野町会は選挙を行つたので全部一応その資格を失つたのであるから確認の利益はなくなたし又予備的に求めている決議の取消しもこれによつて回復すべき町会議員の資格を失つたから取消しの利益もなくなつたといつて居る。

一、上告人の控訴したのは昭和二十四年二月であつて昭和二十四年六月一日には網野町会で証人調べがあり本件の裁判長大島京一郎殿は当時陪席判事として列席せられた一人でありますから事情は御承知の事と思ふ。

一、昭和二十四年十月下旬には上告人は大阪高等裁判所で訊問を受け終決であつたと存じて居りました然るに如何なる理由か終決でなく徒らに裁判は延引に延引を重ね裁判上の威信に関するかとも存じました。

一、此間被上告人等は種々謀議をこらし職権と金力とを以て策謀を講じ而もこれに加へて被上告人代理弁護人は訴訟技術を逞ましくしてあらゆる延引策を講じたのである。

一、判決延引は誰がなしたのか上告人は求めて延引を好んだものではない従つて昭和二十五年五月十日の選挙が施行せられても本件には何等の関係はないし又上告人自己の利益を希望して訴訟して居るものではない。

イ 町長及町会の執つた行為が違法であるかないか

ロ 其の違法の処分が基本的人権の侵害でないかどうか

ハ 又町会の決議は其の場限りのものであつて議員がかわつたら前の議員の決議した事項は全部無効であるかどうか

ニ 町議会は馴合的な私人が談合的な無茶苦茶政治でも町村民は条例として服従せねばならないのか

一、以上の様な法理的判定を求めて居るものであつて只に民法による利害関係や貸借関係に起因する相対的民訴訟事件ではないと信じます。

一、上告人は法治国民として民主的な真剣を持つた行政訴訟である。

一、上告人は上告人自己の利害関係を云々する者ではない法治国民として違法の処分には絶対に服従すべきではなく其の明分を明かにして法の秩序を保持し法を厳守せしむる事こそ社界の秩序を保持し法の尊厳が出来得て国家国民の福利と文明が増進出来得ると信ずる。

一、金力や権力や職権の乱用や多数を頼りとする衆愚政治に依て基本的人権を侵害せられたり公人人権がジユウリンせられたり等は絶対にあり得べきものではない。

一、森厳なる立法の精神を体得して国民は遵法すると同時に裁く者即ち判官は厳正適法でなければならぬ一方的での判定には当然異議を生ずる。

一、昭和二十五年五月十日の網野町会議員の改選は町村合併より生まれた法の定むる必然的な選挙である従つて旧議員の資格の失格は当然の問題である。

一、故に旧議員等が自己の非と不適法に依る違法処分の実施を悟ひ其の責任を感じて辞職をなし其の結果改選を行つて失格したものではないから前述の場合の改選とは甚だしく相違のあるものであつて利害関係にも法的にも極めて重要でなければならぬ。

一、従つて本件に関する訴訟の性質に於て又実質的な意味に於ても甚だしき相違点があるから高等裁判所が簡単なる民事事件として個人的利害関係を中心としての判定には服従出来ない。

一、上告人は社界問題として又民主的な法治国民としての立法の問題として正しい行政訴訟事件の形体を精神として政治的正しい解明を希望する。

一、町会議員の決議は一定の期間或は又決議の内容に於ては永久的な条例として存続する場合もある筈である若し決議の取消又は変更を要する場合の生じた際は議会は会議にかけ然る後決議の取消又は変更が出来て始めて決議の内容に依て効力を失ひ又は効力が更新或は新らしき条例として効力が発生する立前なりと法は定めて居る。

一、故に網野町の場合に於て一応選挙に依て町会議員の資格は失格しても網野町会の除名決議は存続して居る筈であつて無効のものではないし又昭和二十三年二月二十三日の除名決議が自然的に消滅したとは考えられない。

一、然りとすれば憲法違反や法律違反や条例違反を以て無謀にも暴力的行為を以て基本的人権を侵害せられた上告人の場合は何如になるのか。

一、斯様な場合にこそ国法の尊厳が感情を以て立法の精神を無視し一方的な判決を正して正しく判定してこそ法の秩序が保持出来国民生活殊に公人生活等も不安を除去して安心決定して民主主義的国民生活の享有を享けるであろう。

一、故に上告人は違法の処分に依て基本的人権の侵害を受けた事実は国法の命ずる処に依て之れを取消す事が当然の措置であつて何等議論の余地はないものと信ずる。

一、高等裁判所の判定通りとせば議会の決議は選挙により議員が改選せられた場合は旧議員等が議会に於て決議決定した事案は一応一切無効となる理論になりはせぬか斯るとせば法の尊厳は更にないし法の秩序も無論ない従つて地方条例等の効力も実に情ない煙の様なものでないか憲法に厳かに定めた基本的人権享有の権利は何処に有るのか。

一、判決の延引は誰がなしたのか上告人は始終決審を迫り判決の早いのを切望して居たのである。

上告人は好んで判決の延引を策したり又延引を希つたものでもないが色々の事情で若し延引となつたとしても事件は其の当時の事実に依て判定せらるべきものでなければならぬ。

殊に上告人の事件は個人的な単なる民事事件とは其の性質に於て根本的に違ふ議会人としての事件であるから事態其のものが議会に関する法理上の問題として併て地方議会の将来の運営上の問題として厳正に裁判を望むものである。

一、網野町議会が昭和二十三年二月二十三日施行した上告人除名の決議が違法であるか暴力的な行為に依り基本的人権を侵害していないか将又適法の処分であつたか否か判然とした判定を求めて居るものである。

○被上告人等は除名をせねば公共の福祉に適合しないと論して居るがこんな馬鹿げた愚論を以て人身攻撃をして居るので笑止の沙汰だか一言する。

一、上告人は網野町に於ける財閥でも名望家でもまた支配階級でもボス的の存在でもない上告人を除名せねば網野高等学校の建設が出来ない等と実に云懸りも度があると存ずる網野町に高等学校の建設要望は四十年来の要望であつた此意味に於ても町民がさゝいな事件で兎や角云理由はないむしろ上告人を除名したので有志金の募集と集金に支障を来たして居る事実がある。

何卒大所高所から御観察下さい何れ弁論の際詳細陳述いたすます。

以上

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